奈良医院だより  302 

                                                

〒018−3322

秋田県北秋田市住吉町7−1

奈 良 医 院    

TEL(0186)62-1146

FAX(0186)62-1194

http://digital-k.com/nara.htm

平成24年2月1日

(2012年)

診察室を出て  「警察医」

奈 良 正 人  

 

医療機関では日常の診療は勿論ですが、診察室を出ての仕事も沢山あります。その一つとして警察医があります。北秋田警察署の管轄は北秋田市と上小阿仁村ですが、面積では県内最大の広さです。警察医の人数は人口により決められますが、当地区は私と北秋田市民病院の疋田先生が警察医をしています。警察医は警察署の特別職非常勤職員という立場で仕事をしています。警察医の仕事の主なものは、警察職員の健康管理と留置人の診察・治療。変死体の検案です。警察署に留置された人が何かの病気を持ちお薬を服用していたとしても、本人が持っている薬をそのまま服用させることは出来ません。必ず診察し、必要に応じて新たに処方した薬を服用してもらっています。職員の職場健診後の指導は産業医の資格を持つ疋田先生が担当しています。

 病気で死亡した場合は主治医が死亡診断書を発行しますが、診断した医師は死因に疑わしい部分がある時には警察署に届ける義務があります。異常死体として扱われ、警察医が呼び出されます。また救急搬送を依頼され駆けつけた時、既に死亡している場合も消防の救急隊から警察に連絡され、警察医に出動依頼がきます。医療機関や救急隊が関与しない死体が発見された時も警察医が死体検案をすることになり、24時間いつでも呼び出されます。警察医が都合のつかない場合は警察署そばの、佐々木先生や、上田先生にご協力いただいております。自宅で死亡している場合は、救急車要請の有無にかかわらず主治医に連絡し死体検案をしていただくと、異常死体でない限り警察が関与することはありません。

 異常死体の中で、水中と火災現場から発見された場合は司法解剖が行われます。これは水中から発見されたといっても必ずしも溺死ではなく、殺されてから水中に投棄されることもあるからです。火災現場からの死体は、焼死ではなく殺されてから焼かれる場合もあるからです。解剖により死亡してから水中に投棄されたのか、あるいは焼かれたのかが判断でき、溺死や焼死との鑑別がなされます。また事件性が否定できない例や事故死でも司法解剖になる場合があります。司法解剖は裁判所の命令で行われ拒否することはできません。事件性は無いが死因がはっきりしないため解剖を勧められることがありますが、これは行政解剖であり遺族の承諾が必要です。どちらの解剖も秋田大学法医学教室で行われ、遺族に費用負担はありません。行政解剖を希望し死因がはっきりして良かったとお礼を言われた症例もあります。

 今日もまた警察から呼び出されないことを祈りつつベッドに入ります。お休みなさい。

てんじゅ裏